氷川丸の機関室
1930年に竣工し、昭和初期爛漫の北米シアトル航路を走り、凄まじい強運で大戦を生き残って、復興期も忙しく働いた氷川丸。その心臓部、北欧はデンマークのBURMEISTER&WAIN社のディーゼルエンジン、直列8気筒5500馬力が両舷に収まる勇姿をご覧あれ。
これらの動弁駆動機構の作動速度は、当時の映像で見る限りとても遅く、自動車等の内燃機関のように忙しく動くわけではない。およそ5〜10秒に1度、コトン、コトン、と蒸気レシプロ機関の悠然さに近かった。


昭和の重工業、奇跡の天井工芸(左)
半導体などで日本が世界席巻出来たのは、 きっとこんな処に土台があると思う。
救助艇や風呂場に繋がるらしい導管バルブ(右)
一体何が流れたのだろう。精油?蒸気?


ここから2階。バーマイスター&ウェイン社エンブレムのついた主シリンダー、手前はプッシュロッド。と、


左舷には一瞥、あっけないほどに現代的な配電設備 小綺麗に手入れが行き届き、ズレの少ない操作部品。 本当に船を大切にしていたんだと思います。右舷は現在の配電設備。陸よりAC6600Vを引きAC100VとDC220Vに。 三相ではなく直流とはまた、 現役で動いている半世紀以上昔の電動機がありそう!


動弁作動機群。下はおそらく冷却水排水管か、排気管か。(左)
ジツに巨大なコンロッドとクランク。(右)
潤滑油の湿りに、機関はきっとまだ生きている雰囲気。
ちなみにASTERN(逆進)をかけるときどうするか。ギヤがあると思っていた自分が愚かだった。燃焼膨張サイクルに入っているシリンダーがあろうが、エンジンそのものを逆回転させてしまう。自動車のメッサーシュミットといい、北欧人の頭には、内燃機関をそのまま逆回転させるという事をためらわない根性があるのがステキだ。

最下層、機関室の醍醐味


アナログ計器にベル、大好きだ!!
「チャージ中」ランプは、ターボ車に付けたい。
エンジンコンソール(右)。中央は点火線よろしく、
グロースターターのディストリビュータか?


爆圧計、起動空圧計、冷却水圧計 最上部の表記は… B&Wコペンハーゲン工場で1929年に誕生、 ディーゼルエンヂン、シリアルナンバー1602。
エンジンスロットルはすっかり錆びきっているが動く。 現役時代は絶対、銀無垢に輝いていた筈だ!…昔の船はブリッジからの司令を伝声管なり電話なりスピードテレグラフなりで意志を繋いで、ここで出力操作するわけですネ。


サーモスタットの一種だと思うんだけれど(左)、 使い方はタイムスイッチみたいなものかしら。屈託のない正転逆転切り替えレバー(右)にはきっと、 衝動への我慢が試されていた筈だ。


左写真、ポンプ群(排水・潤滑)
手前は説明によれば甲板動力への電動機群。
右、大好きなスピードテレグラフ。
ブリッジとのやりとりの基本 機関室の浪漫!!


結構な容量っぽい発電機。ちなみに氷川丸の一つ上のクラスの新田丸は、 当時の八王子市の電力をまかなえる容量だったそうな。右写真、発電専用ディーゼルエンジンは、これもB&W。殆ど戦車のエンジン。 ということは電力容量は260kWくらいかしら? 発電機は出航前日から始動していたらしい。

操舵室との詳細なコミュニケーションは電話だったそうですが、
騒音対策で電話ボックスがあります。結構うるさかったんですね。
おまけ

それをいつまで実施するかをお考えになられたことありますか?
2000年前のものがどれほど残っているでしょうか?
1万年前のものは?
逆に、太陽の直径が地球公転軌道に達する10億年後にはどのように有るのが望ましいと思いますか?
お金をかけるということは、有限なことなのです。お金と、価値というものが、どうやって存在しえているかをお考えになられましたか?
まして船というものは、ケタのかなり大きな商売を行うための道具です。郵船資料館に黄金期の主計表が展示してあります。1回の航海で必要な帳簿の分厚さは、A1くらいの紙面サイズで電話帳のようなものです。船というものは、そこに船として認知され存在しているだけで、かなりの費用がかかるものなのです。最初から利益目的を期待していたからです。
しかし、そうして生まれ、沢山の創意工夫のなかで洗練された乗り物は確かに美しい。そして意義深い。
ですから私は、今そこで親しめることこそ一番幸せだと思っています。そして既に、ご自分の商売を削りながらも大金を出してくれている方々がいらっしゃる事に感謝をしています。