2007年05月08日

完璧!キャリブレーション

これは以前mixiに書いた記事の転入記事です。
なお、クドい内容なので、さっさと画面と印刷の色を合わせたいんじゃあ!という方は、
絵を描く人向け楽ちん印刷法
をお試しください。

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(この、こんにゃくみたいな三次元空間がディスプレイの色域。これを岩石みたいなプリンタ(と紙)の色域にいかにして落とし込もうか、という無理難題がカラーマネジメントでありカラーキャリブレーションのゴールであります。)


〜失われしインクと紙と電力に捧ぐ〜


苦節9ヶ月間を通して試行錯誤と七転八倒を繰り返した、家庭用プリンタにおけるカラーキャリブレーションのお話。(´・ω・`) うん、またなんだ、すまない。でも、もし、色についてちょっとばかり疑問を持ったとき、一読してくれればいいと思うんだ。

ではまずはじめに。

ついにディスプレイと印刷が合致したぞ!

民生機でのカラーマネジメントはほぼ掌握したぞ!

もう怖くないぞ!ははははは!

と、宣言しちゃう。
おおなんと晴れ渡るデスクトップ!我がiMacの行く手を阻む物は以下省略で、単刀直入に総括いたします。

・絵を描く人は、ハードウェアキャリブレーターによるディスプレイのキャリブレーションは必須。そこで生成されたiccプロファイルを、OSX設定の画面項目と、Photoshopカラー設定の作業環境で指定しておく事がなによりの基礎である。
加えて、作成するデータには、意図的に外す以外では必ずプロファイルを埋め込む設定が必須。および、プロファイルを埋め込んでいないファイル(=RGBタグのないファイル)を読み込む際には、必ず目前のモニタプロファイルを埋め込ませて読み込む設定をしておく事が必須である。いずれもPhotoshopカラー設定から設定可能である。(初心者は、これらがPhotoshopインストール直後のデフォルトでは全く設定されていない事に注意しなくてはいけない
そして、このモニタプロファイルさえ整えておけば、後は何とかなると言い切れる程で、印刷出力の段階では、いざとなればカラーマネージメントのプロに託して強引に解決する手段も存在しえるのである。ところが塗った環境の定義が曖昧なままだと、どうしようもないのである。

・ホワイトバランス5500Kか6500Kかそれとも9300Kか。究極、演色性の話と割り切ってしまえると考えている。8000K以上ではたしかに印刷向けデータ作成には向かないかもしれないが、いずれも、心理的色域についてはいずれの白色温度でも超越的に同じ感触の出力に至るから、自分は6500Kを無難なゲージとオススメする。多くのディスプレイがデフォルトで設定される9000K台からいきなり6000K台に落とすと、白がオレンジに見えて大変動揺するが、先入観をリセットしてリラックスすれば5分で慣れるから気にするな。ただ、その際、色とは一体何を信じたらよいのか、という壮絶なカルマが巨大な口を開けている筈だから、そこはひとつ、ベンチャーの精神で乗り切ってくれたまえ。(‘A`)

・ガンマ1.8か2.2か。ホワイトバランスと同様、出力に大きな結果を反映しえない、と考えているのが持論である。なにせ、出力先の紙にだって、ガンマもあればホワイトバランスもあり、そしてそれらは、お天道様の角度で刻々と変わるのだ。
ただ、Appleが最初に選択した1.8は、ディスプレイ上での最終コントラスト表現の深さに利点がある。だが、ネットにjpgで公開する段階で、世の中の大半(Windows)の人は、細部のコントラストが僅かに潰れて見えていると考えておいた方がよい。ガンマはそもそも、映像ソースの編集舞台では最高の威力を発揮する話だが、絵画作成ではどちらの設定でも、究極問題には発展しえないとの認識に至っている。ただ自分は、Mac←→Windowsのコンバートについてもう少し感覚的に知りたいため、あえて1.8を固守している。(この記事を再編集した2014年現在、Mac側のγは2.2となっています。OSX10.6以降、2.2が標準となりました。

ここからが本題。

1.家庭用RGB制御式プリンタによる出力基礎
Photoshopのプリントプレビューでの都度設定箇所。CMS(Photoshop ColorManegementSystem)又はColorSyncの基本設定項目の早見表である。

Photoshop側ドライバ側
カラースペースを変更しないマニュアル色補正
プリンタ側でカラーマネジメントColorSync
任意のiccプロファイルの指定色補正なし

なによりもこの対応基礎を失うと、全くプリンタを制御できなくなる。今となっては良くわかる事なのだが、試行錯誤当時、これを合理的に解説する物に恵まれなかった。それどころかスキャナの読み込み段階から全てが狂っていた事がわからないままどんなにがんばっても目的とは全く違いすぎる(例:青→紫)出力結果が出てしまったため、この基本を本当に理解出来きなかった。ちなみに、細部にいたるまでほぼ総当たりの組み合わせを試してしまったのである。

2.純正インク以外をつかうのは全くもって論外とする。(但し、海外ではEPSON顔料機用の更なる高性能インクが存在するようで(純正でも既にかなり高性能なんだが)、もしそういった物を扱うのであれば、そのインクと目的紙に対するキャリブレーションを実施すれば良い)

3.紙についての純正か社外か、については、紙をディスプレイとして考え、紙種ごとにキャリブレーションを施していくのが基礎である。紙の性能に対しては後述。

4.プリントキャリブレーション事始め
カラーチャートを出力したら、インクの定着に十分すぎるくらい時間を設けるべし。瞬間乾燥&5分定着を売りにするEPSONの極超高級顔料インクでも最低2時間は設けるべきだ。染料インクに至っては24時間から5日は置くのが良いと、経験から考える。下手に急ぐと、Labプロットは全てを見ている。

5.カラーチャート測色に汎用イメージスキャナを使う場合は、CCDよりもCIS方式を使うべし。CCDは、読み込み深度が深い利点が、すなわち三次元に量子データが分散しがちになり、補正無しデータのコントラストが失われ、輝度暗めに全範囲に渡って色相が分解する嫌いがある。少なくとも、基礎アルゴリズムがチャチな1万円台のCCD機は使うべきではないし、複合機併設のスキャナも用いるべきではない。対し、二次元面の読み込みに徹するCISは、補正停止下での色相再現性が素直であって、キャリブレーション用の素のデータとして理想に近いものができあがる。
安価なEPSON GT-S600で何度やっても整合できず、スキャナに問題があるのではないか、と睨んでいたところ、譲渡したCanoScan LiDE 500Fを借りてきて試し、このあたりの確信に至る。

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6.読み込みに際して、ゴミは”徹底的に”除去するべきであった。カラーチャート格子内の平均値を単純に扱っている様子で、ゴミが含まれているとLabプロットがわずかに変わる。それが印刷上に至ると、コントラスト表現に、非常に大きく響いていた。
ただ実際問題、フラットヘッドスキャナでは必ずといって良いほど浮遊ゴミを読み込んでしまう。そこで、読み込んだチャートをPhotoshop側で、コピースタンプツールを用い、手作業で修正していくだけで、単純にカラーチャートの純度が上がる。但し、格子からのはみ出して塗るなどは厳禁である、微細な作業であることは言うまでもない。

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7.IT8カラーターゲットの劣化についてメーカーの見解は、こまめに買い換えを促すに止まっているがしかし!製造元のMonaco Systemsが世の中から末梢された現在、恐怖の「お取り寄せ&入荷未定」状態である。が、カラーターゲットが記録されているKodakのEnduraというプロ用超光沢支持紙について調べてみるところ、ポスターディスプレイで1年、家庭一般ディスプレイで100年、暗所保管で200年以上の耐久性を持ち、それらの調査に際してのベンチマークは、IT9ターゲットが3割減色するまでを計測する加速試験であるようだから・・、添付の保護フィルムにつつみ冷暗所で大切に保存しておけば5年くらいはほぼ無劣化と云えよう。オゾンを出す脱臭機付近やブラウン管高圧回路付近、果ては窒素酸化物が多く浮遊する道路付近での保存は厳禁だ。
加えて友人が、ホコリ付着箇所に神経質になって、一眼カメラのレンズを拭くNASA謹製特殊ブラシで拭いたところ、変色が始まってしまった。ブラシの組成か、レンズ上から拾った洗浄剤等の化学組成の影響かの詮索はさておき、ゴミ付着に対しては、読み込み後の人力デジタル補正で対処するのが最も安全といえよう。

8.そうこうしてカラーチャートを整え、それを測色ソフトウェアに読み込ませて、いよいよ出来上がったカラープロファイルは、ファイルに日付を付けておくと良い。また、Photoshopやカラーマネージャーから直接読み込む際に、単純にファイル名がiccプロファイル名称として扱われるため、マット紙用ならmat、PCM竹尾紙ならtakeo-mermaidなどの紙別情報をファイル名に入力しておく事が必須だ。

9.刷ってみる。一発で納得いけたら、運がよいか鈍感か。

10.純正インクと純正紙の組み合わせであって、明るい絵であれば、基本的にモニターと高水準の合致をする。↓ドンピシャで合う絵の典型。

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(セッティングをほぼ総当りで試していたときのもの。右側がほぼ狙った色になった時の出力物。それを、キャリブレーションされたスキャナで読み込んだのがこの画像。)

ただ、RGB→CMYK変換、くわえて、透過光(LCD)→反射光(紙)という、全く相容れない要素間を、凄まじい根性の数学によってコンバートしている舞台裏を考えてさし上げよう。全く同じ色にはならない。・・が、云いたかった色や方向性なら、バッチリと高水準で合致する。

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11.そして紙の性能を考察しなくてはいけない。これが意外なほどの盲点である。先ずは基本を記すと、インクジェット用紙はおおまかに2つに分かれる。マット紙と、光沢紙である。
マット紙に顔料インクが乗ると、それはまさに、日本画の岩絵の具の様なカッコ良さが再現され、底知れない恍惚が貴方を待っている筈だ。対し、光沢に顔料インクが乗ったときそれは、20年前倒しにしてスーパーハイビジョンの世界にようこそ。(誇張ではなく最近のプリンタの解像力は、スーパーハイビジョンよりも走査が多いわけで)そこに、sRGBよりやや大きめのAdobeRGB色空間を追従する極超高級インクの性能が本領を発揮し、入力ソースの色空間ほぼ全域にわたって滞りなく反射光のハーモニーを生み出してくれると云っても過言ではない。この様に、絵画におけるマット紙の優位性、色彩の純粋表現における光沢紙の優位性、があげられるわけだが、これは同時に、マット紙においては、表現が出来ない色域、色系統が存在する事を意味している。
ここで少々脱線して、カラーマネジメントつまるところカラーキャリブレーションの原理について、触れておかなくてはいけない。

デジタル空間における色彩処理というのは、そもそも、実態が存在しないのである。全く数学的な論理空間に、Lab色空間という広大な数学的パレットを設定し、それぞれの機材がそれを参考にして、沢山の数学アルゴリズムを処理し、最終的に、液晶ならば素子の格子窓への交流電流を制御したり、プリンタならば、ヘッドの中の圧電素子ないしヒーターにかける電圧を調節したりするのである。そして究極一番最後に、網膜に届く色波長が誕生しているのである。短縮、キャリブレーションというのは、これらそれぞれの機種間の論理通信基準であるLab色空間の中で、この色はここを参照せよ(これを、プロットすると云う)、という事前設定を、5億色とも云われる電子制御色域に対して電算で整合させておく作業なのである。話は続く。
先に挙げたように、モニタは全色合わせると白になるRGB空間そして透過光、プリンタは全色合わせると黒になるCMYK空間そして反射光、という全く違う特性を持つ。ゆえに、どんなに高度なアルゴリズムを用いて色の整合を図ったところで限界が発生する。それが実際問題としてどの様に出るかというと・・
こちらの色を出そうとするとこちらの色が出にくくなる又は、出ない、たとえば、黄色人種の黄色肌をしっかり立てると、背景に設けた黒茶系の色の変換に難を要し、より褐色黒化してしまう・・
という事を確認している。(但し、カラーチャートの精度をより向上させ測色機材もより純然たる装置を用いたらば、おそらくこの現象はより解決にむかう筈と確信している)ここで話を脱線から戻そう。

上記の問題を、整合限界とでも呼んでおくと、その限界をよりフリーに解き放つ最も簡単な手段として、紙の性能を向上させる事があげられるのである。たしかに質感は写真化してしまうものの、絵画色をあくまで忠実に再現する事が目的であれば、幅広い色再現幅に結びつく光沢支持層を持つ光沢紙を用いるのが、単純な解決手段となりうるのである。この原理をより分かりやすく考えれば・・、白い壁紙が白色しか反射できないのに対して、鏡が入射光を全反射させて貴方の顔を写す原理と近似している。マット紙ではインク自身が持つ広域な反射力を、粗めの表面で抑制し、変わりに、ミクロにざらつく、しかし絵の具のような大胆さを備えた反射光を生み出しているのである。ゆえに、マット紙では再現を出来かねる色域が広域に発生するのである。



さて、これらを実践で考えてみよう。

基本的に、一瞥して明るい絵についてはマット紙、光沢紙を問わず、刷りだしてみると痛快である。脳内カテコールアミンは最高潮のことだろう。問題は、全般的に暗い絵である。↓典型

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これが非常に難しい。先ず、マット紙でいきなり出してみると、キャリブレーション精度が低いと単に真っ黒の刷り上がりとなる。精度を上げていくと、コントラストが発生してくるがやはり真っ暗か、または、全域が淡く褐色がかった息の詰まるような色で、無理矢理画面と合致させようと、愛用パソコンのCPUが血反吐を吐くような努力を実行した形跡を垣間見るに至るのである。この場合、素直に光沢紙に逃げるか(それでもモニタとの最終整合率は高くはないが、しかし一応は、出したかった色系のベクトルは合致している)、または、少々のロジックを与えてみてみよう。
問題の作品をヒストグラムで見てみると、右側がスカスカで時に全く途切れてしまっている、対して左側がデップリとしていると思う。経験則で申し訳ないが、こういう状態を家庭用機材でのRGB→CMYK変換は得意としないようだ。(ただそれ故に、プリンターにデフォルトで備わっている「おまかせコース」的カラープロファイルは、凄まじいR&Dが行われた結果が埋め込まれており、最終整合率を犠牲にしながらも絶対的近似配色をするという、ド根性アルゴリズムが内蔵されている。)では我々はどうするか。

明るさとコントラストを少しずつ上昇させるのである。

ヒストグラムで変遷を見ていくと、色域が右に推移していくのがよくわかる。たしかに一瞥、絵の性格が変わってしまうが、運が良ければ、10%程の上昇で、カラープロファイルの処理アルゴリズムに、糸口のようなものを与えられる場合がある。さすれば、なんとか”云いたい色”をより多く紙に載せる事が出来るかもしれない。

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(刷ったものを再度読み込んでオリジナルからのヒストグラムの変化を見てみると、上で書いてあることが理解できると思う。)

もっとも、マットはそもそも乱反射による穏やかな表現が売りの紙ゆえ、どうしても暗い表情を得意としないのであるが。
このような紙の「基本性能」を把握しておくと、一発で色が整合出来なかった時に考えるべき巨大なロジックの一つをバイパスできたりするのである。

・さて、では、暗い背景に明るいキャラクタがあったらどうだ。

ariel.jpg

これが意外にもマット紙の出番なのである。この話はもう殆ど、心理学の世界だと思う。
先ずは光沢紙であれば、明確な明点があるゆえの処理のしやすさから文句なく細部にわたって表現が実行されて出力される。同様にして、マット紙においても色再現処理は比較的良好に実行されて、予想以上に暗点細部の表現が出来ている。
この状態で紙を、マットから更にエンボス化した画材質感紙にしてみるとなかなか面白い。先に書いているように、暗点のコントラストが死んでくる。だが、手前キャラクタの味のある引き立ちが、より絵画らしい仕上がりの質感に化け始めるのである。これは、乳幼児では起きない大脳生理なのだが、霊長類の成人では少なくとも、深層心理で強烈にキャラクタを選別抽出する仕組みと合致する事に、強力に関係するのだと考察した。
緻密な背景をあえてあまり押し出さずに、手前キャラクタを引き立てたい場合、その意図をより強力に行いたい場合、あえてマット系紙を利用する方法がありそうだ。

以上、ひとまず自分のキャリブレーションへの興味を総括しました。今後どんどん向上する印刷技術やコンピューティングの恩恵を受ける事があれば、またその時にでも。

最後に、高額なキャリブレーターを下賜くださった友人shiba氏に無条件の感謝を申し上げます。本当に本当にありがとう。

posted by mao9821 at 00:00| Comment(0) | 読み物
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